【世界日報・連載】脅かされる信教の自由 ④ ⑤
【連載】脅かされる信教の自由④
第1部 岸田政権の暴走 「質問権」行使表明の矛盾
岸田文雄首相は2022年10月17日の衆院予算委員会で、政府として世界平和統一家庭連合(家庭連合)に対し「宗教法人法に基づく報告徴収及び質問の権限」(質問権)を初めて行使する方針を発表した。ちょうど、河野太郎消費者担当相が消費者庁に設置した「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」が家庭連合への質問権行使の必要性を提言する報告書を公開した、その日だった。
首相は、事前に永岡桂子文部科学相に手続きを進めるよう指示しており、「質問権の行使による事実把握、実態解明…をしっかりと進めていかなければならない」と意欲を示した。
内閣(8月10日)に続いて自民党まで家庭連合との関係断絶を宣言(同31日)したにもかかわらず、内閣支持率の下落は止まらず、局面転換するための特段の措置が必要だった。それが教団に対する質問権の行使だったのだろう。河野担当相が消費者庁の第7回検討会(10月13日)で報告書の公開日を「月曜(17日)の朝」と指定したのも事前の打ち合わせがあったことを窺(うかが)わせている。
ただ、政府として十分に準備したものではなかったようだ。
首相は14日、立憲民主党の小西洋之参院議員の質問主意書に答えて、家庭連合については「当該解釈を踏まえ、同項(解散命令事由を定めた宗教法人法81条第1項)第一号及び第二号に当たらないと判断した」とする答弁書を閣議決定している。
具体的には、1995年の東京高裁決定が示した①宗教法人の代表役員等が法人の名の下に取得・集積した財産、人的物的組織を利用してした行為②社会通念に照らして、当該宗教法人の行為であるといえる③刑法等の実定法規の定める禁止規範または命令規範に違反し、しかもそれが著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為――などの解釈を踏まえて判断すると、家庭連合は解散命令請求には当たらないとの政府見解をまとめ、閣僚全員が署名したのだ。
宗教法人法(第78条の2)に基づく質問権は本来、「解散命令の事由等に該当する疑いがあると認められるときに、宗教法人法の規定に従って行使すべきものとされて」いる。信教の自由の保障を大前提とするため権限発動の要件が厳しくなっているわけだ。
質問権などを追加する同法改正に関与した前川喜平・元文部科学事務次官も、質問権は「所轄庁(文部科学相)の側に、(家庭連合の)この行為、この行為、この行為が解散命令の事由に該当する疑いがあるという認識がなければ、行使できない」(同年10月25日、国会内での野党ヒアリング)と述べている。
その基準からすると、教団が解散命令請求に当たらないと閣議決定した3日後に、首相が同じ教団に対して質問権行使を発表するのは、宗教法人法の規定と完全に矛盾しているのだ。しかも首相は、①2016、17年に法人自体の組織的な不法行為責任を認めた民事裁判例が見られる②政府の合同電話相談窓口に9月(5日から)30日まで1700件以上の相談が寄せられ、法テラスや警察を含め関係機関に相談がつながれている――という二つしか根拠を示さなかった。これではとても、東京高裁決定の厳格な条件は満たせない。
首相は予算委で「質問権の行使による事実把握、実態解明」と述べているように、質問権の行使を証拠集めに使おうとしたとみられる。しかしこれでは、政府は大混乱に陥るしかない。その矛盾をマスコミから突かれた永岡文科相は「やはりいろいろと、やはり言いにくいことばかりでございます、申し訳ないんですが」と答弁に窮した。(信教の自由取材班)
《家庭連合への解散請求を巡る動き》
【2022年】
7月8日 安倍晋三元首相が参院選演説中に銃撃され死去
奈良県警関係者が銃撃犯は家庭連合への恨みが動機とリーク
8月10日 第2次岸田文雄内閣発足、教団との関係見直し表明
18日 「旧統一教会」問題関係省庁連絡会議(法務省)
29日 霊感商法等の悪徳商法への対策検討会(消費者庁)
31日 岸田首相、自民党総裁として教団との関係絶つと宣言
10月6日 岸田首相が解散命令請求に「慎重判断の必要」と国会答弁
11日 全国霊感商法対策弁護士連絡会が文部科学相に解散請求を要請
14日 教団は解散事由規定に「当たらないと判断」答弁書を閣議決定
17日 消費者庁検討会が質問権行使を提言、首相が文科相に行使指示
19日 首相が解散請求要件に「民法の不法行為も入り得る」と答弁修正
11月8日 文化庁専門家会議が質問権行使基準まとめる
22日 文科省が初の質問権行使(教団の回答は12月9日)以下、7回にわたり質問権行使
【2023年】
9月6日 文科省が100項目以上回答拒否があったとして過料方針決定
7日 東京地裁に過料通知
10月12日 同省が教団の解散命令請求について、宗教法人審議会開催
13日 同省が東京地裁に教団の解散命令請求
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